サーチュイン遺伝子(Sirtuin)とは、老化や寿命の制御に重要な役割を果たすとされる遺伝子で、「長寿遺伝子」とも呼ばれている。細菌から哺乳類まで、多くの生き物に備わっている。サーチュインの発現量を増やすことで老化制御につながる効果を得られたとする動物実験が多数報告されており、人を対象とした臨床試験も進められている。
サーチュイン遺伝子の研究が確立されるきっかけとなったのは、2000年、米マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授と当時同ラボのポスドク(博士研究員)であった現ワシントン大学医学部発生生物学部の今井眞一郎教授によるある研究の発表だ。酵母のサーチュイン遺伝子(Sir2)に着目した2人は、この遺伝子が持つ全く新しい機能を強めると酵母の寿命が延び、欠損すると短くなることを突き止め、その成果を科学誌『ネイチャー』が掲載、注目を集めた。
世界を驚かせたのは、たった1つの遺伝子が持つ、これまで知られていなかった新しい機能を強めただけで寿命が延びたという事実だった。
その後の研究の進展で、現在では哺乳類にはSIRT1からSIRT7まで7種類のサーチュインがあり、それぞれ異なる特性があることが分かってきた。このうち、特に重要だとされているのがSIRT1(サーティワン)だ。SIRT1は血糖値を下げるインスリンの分泌を促し、糖や脂肪の代謝をよくしたり、神経細胞を守り記憶や行動を制御するなど、老化や寿命のコントロールに深く関与していると見られている。
どうすればサーチュイを活性化できるのか。その鍵を握るのが、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という物質だ。NADは、細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギーの産出に欠かせない補酵素で、サーチュインを活性化させる役割を担うとされている。組織中のNAD量は加齢と共に減少するが、NADを増やすことができれば、サーチュインを活性化させ老化を遅らせる効果を期待できる。
NADを増やす方法として、運動やカロリー制限などの有効性が知られているが、近年ではNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド、ビタミンB3からつくられる物質)の摂取なども注目を集めている。
サーチュイン遺伝子の活性化で改善が期待できるとされる老化現象(出所:Cell Metab.2018 Mar 6;27 (3):529-547.をもとに日経BP 総合研究所作成)